「マトリックス」の真の続編は「リベリオン」だ!?

というわけで、観ました映画「リベリオン」。あなたが観た人ならば、私は「ガン=カタ!」とだけ叫んでお互いに握手しようとした瞬間、袖に仕込まれたレールホルダーから銃を飛び出させて、銃を巧みに使ったカンフーっぽいガンアクションに入ればいいだけですが、観てない人にはそれだけではよくわかりますまい。え、わかったのどんな映画か? ……エスパー、君?


ビデオレンタル屋の新作棚に並んでいても、「うわー、『マトリックス・リローデッド』に合わせてこんなパチモンが、さすがどこの配給もあざとい」なんてつぶやかずにはおれないパッケージの映画「リベリオン」の舞台はまたしても第三次大戦後の近未来。あらすじは配給元の紹介が抜群にまとまっているので借りてしまえ! いいかげんだな。

第三次大戦後の世界。絶対的な警察国家は、国民に強烈な精神抑制剤プロジウムを服用させ、絵画や映画、詩集、音楽を奪い取り、違反するものは有無を言わさず処刑してきた。感情犯罪取締官(クラリック=聖職者)のプレンストンは、国家のために忠実に任務を遂行していったが、反乱者メアリーの逮捕をきっかけに、感情を取り締まることに疑問を抱き始める。彼の中で生まれた行き場のない感情は、ついに自由を求める戦いへと変化した!

引用元→ http://www.amuse-soft.co.jp/


ありがとうアミューズ! そんなだった、そんなだったよあらすじは。普通、あらすじを書くことはそれ自体が評者の着眼を露呈する重要な評論行為なのだが、今回、私の着眼は「マトリックス」の場合と同様あらすじにはないからいいのだ。


では、この映画における私の着眼点はというと、それはまたしても叫ばねばなるまい、「ガン=カタ!」だ。クリスチャン・ベイル扮する主人公がその達人となっているガン=カタGUN-KATAとは、過去のあらゆる銃撃戦のデータをふまえて、いかなる体さばきとともに銃を使えば敵の銃撃を受けずかつ必殺の一撃を打ち込めるかを目的として、究極の合理性の元につくられた射撃の型である。……なんやそれ!


つまり、ひらたく言えば、カンフーっぽい型を決めながら銃を撃つだけ。しかしこれが撮影編集術もあいまって、本当に素晴らしい活劇体験をもたらしてくれる! あたかもナムコの「鉄拳」の打撃部分の閃光演出みたいに、打撃やさばきにあたる動きをアクセントづけるように発砲による音とマズルフラッシュが加わるのもいい。「マトリックス」以降、「カンフーアクションとガンアクションの融合」なんて売り文句の映画も多かったけど、今までのはカンフーシーンとガンシーンが別にあるってだけ。でも「リベリオン」は違う。融合っぷりが絶対的に違う。というか新しい。カンフーアクションが持つ舞踏性によって銃を撃つとは、こんなことになるのか。こんなふうにアクション設計すればよかったのか、と香港の映画人たちも必ずや嫉妬していると思う。なんで自分たちがやらなかったのか、と。


ガン=カタ」を着想した監督脚本のカート・ウィマーを別にして、まず第一の功労者はアクション指導のジム・ビッカーズ。実際にはカンフーマスターでもない役者たちが苦手とする残身が比較的綺麗に決まって映えるアクション設計を生みだした。*1キャメラのディオン・ビーブもいい。スタイリッシュな構図なんてのは今時珍しくもなんともないけど、奇抜さや「ガン=カタ」とも関係もないごく平凡な「男が走り出すこと」を撮るのがなかなか巧いあたり、このキャメラマンはあなどれない。群集の中でクリスチャン・ベイルが不意に走り出す二つのショットは映画を感じさせるものがある。編集は誰なんだろう。誰か知らないが、そいつはきっと勝新太郎の「座頭市」を観ているって気がする。ラストのガン=カタ達人同士の戦闘、アクションのアラをとばしてつなげて超人の武闘性=舞踏性を見事に再現しているあたり、及ばずながらも勝新の最後の「座頭市」の殺陣の編集術を髣髴とさせる。直前の殺陣でも日本刀も逆手に持ってたしね。


あらすじはどうでもいい、と言ったけど、ウィマーの脚本と展開にも感心した。とにかく主人公が耐えに耐える。この耐えっぷりがまたただごとではない。原題の「EQUILIBRIUM」(平静)も示す通り、実はこの耐えるということがこの映画の物語上の主題なのだが、妻を殺されているというのに、さらにまた好きになった新しい女すら目の前で殺されるというのに、ベイルは爆発できない、なんてほとんどハリウッド映画の規則を越えている。女を救うことと世界を救うこととを短絡しがちな最近の傾向にも背を向けた、むしろ戦後日本のヤクザ映画的な耐えっぷり。きっとウィマーは最良の時期の深作映画もよく観ているんじゃないか。雑魚キャラたちの撃たれっぷりなど見てもついそう思ってしまう。


ガン=カタ」以外の部分もプロの仕事に満ちて、ひたすら真面目に作ることで生みだされる正しいユーモアがみなぎる映画「リベリオン」。バカ映画でいい、とかでなく、普通にオススメの映画です。さあみんな観よう!

*1:アニメ「キングゲイナー」のキャラデザ兼漫画家の中村嘉宏くんも、重い銃を持ちながらも残身が決まって見えることを評価していた。さすが空手やってただけのことはある。そもそもこの映画を薦めて観せてくれたのは彼なのだけど。ちなみに「マトリックス」のキアヌはこの残身がまったく駄目。さらにちなみに現代の二大残身役者はジェット・リー野村萬斎だと思うが、どうか?